Mozart K533に想う

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Mozart K533に想う
 モーツアルトの音楽を聴くとまるで魂(Soul)が洗われるようだ、という気障な言い回しはモーツアルトであれば許されてしまうのではないだろうか。それほど彼の音楽は人間の琴線に語りかけ幸福感で満たしてくれる。
 小生は就寝前に寝酒を傾けるのだけれど、その時の音楽として最近はワルター・ギーゼキングの弾くモーツァルトのピアノソナタを流すことが多い。とりわけ第18番(旧番号)K533は第三楽章が別の断片から追加されたりと穏やかではない構成を持ちつつも、単純なメロディで構成されたそのダイナミックな展開が小生のお気に入りだ。
 過日ウイーン料理(独料理というべきか)のお店で流れてきたのがこのK533であった。ところがどうも様子がおかしい。御馴染のメロディに纏わりつくように何かしら別の音が聞こえてくるのだ。それは文字通り音符の前後に割り込むがごとく、絡みつくが如く、それでいて違和感は余り無く、実に奇妙な音楽なのであった。よくよく聞いてみるとどうやら2台のピアノで演奏しているらしいのだ。早速調べてみた。すると先ずはあのスビャトスラフ・リヒテルとエリザベート・レオンスカヤが演奏しているCDだと判明した。そして編曲者はグリークなのであった。そして何故か全音から楽譜が出ている。輸入版では無いので比較的安いのが有りがたい。それを入手してみた。正にお店で聴いた音楽そのものなのであった。
 ところでピアノ連弾(含む2台のピアノ)の曲というのはそれほど流行ってはいない。小生は結構好みのジャンルとして聴き漁り、かつ収集もしているのだが新たな録音も殆ど無いのが現状だ。最近分かってきたのだがこれには実は訳がある。レコードもラジオも無かった時代にピアノは「音楽の再生機」であったのだ。そしてコンテンツに当たるものが楽譜というわけ。生活に有る程度の余裕のある家庭の娯楽としてピアノは存在し、そこには家族で弾くための新しい楽譜が要求される。それも一人より二人の方が楽しいに決まっている。ピアノ連弾の楽譜はそうしたリクエストに答えてかなり出版されたものと想像される。
 ブラームスの連弾曲ワルツ作品39は作品自体の出来栄えが素晴らしい事は勿論であるが、ブラームスがシューマン未亡人との連弾を目論んで作曲したフシが無いとは言えぬ。事実当時の書簡などの資料からその辺の事情が窺い知れる。
 音楽自体が録音ソースでしか聞かれない現代では様子がいささか異なって来る。要するに連弾の曲は演奏会でしか聴かれない音楽になってしまったのだ。このグリーク編曲の楽譜を見ると「聴く」よりも「弾く」ことに重点を置いていることが良く分る。そうしたことに気が付かせてくれたのがこの曲集であった。
 音楽評論家の中村とうよう氏が言われている「音楽の三要素」、即ち「作曲家」「演奏家」「聴衆」を考えると、現在の音楽シーンの殆どの享受者は間違いなく「聴衆」であろう。しかしながらこのピアノ連弾曲に限って言えばそれは「演奏家」ということになる。だから新譜も新曲も現出しないのであろう。
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