パラノイア創世記

(JASON通信アーカイブ その8)
パラノイア創世記(荒俣宏 ちくま文庫 絶版) 1993年付
 現代の奇人にして鬼才、天才の異名をとる荒俣宏がまたまた贈る珍妙なエッセイ。パラノイアとは訳すと偏執狂、つまりはマニア、今風に言えばオタクの事。創世記ということはそう、かの大昔にもオタク族がりっぱに存在していたのだ。しかも彼等の時代は人と人との繋がりが薄く、情報網にも限りがあり、生活が貧困でも(つまりお金を生活以外に投入できたという事)別段何の差支えも無く、つまりはアブない人が結構暮らせた環境というものが整っていた(?)からして、そのパラノイア振りは半端じゃあ無い。自らのやりたい事柄をとことん追求したから、とんでもない事件、物件、案件に人権、番犬迄も加わってはちゃめちゃな騒動が持ち上がってしまっていたのである。しかし現在それらの資料は殆ど残っていない。昨今の芸能ニュースに比べたら本当に驚天動地の内容なのに、それほど騒がれないのは「あまりにバカバカしい」のと「のんびりしたコンセプト」の為かも知れない。博物学なる新学問を構築した著者が過去のこうした事例を殆ど埋もれてしまっていた膨大な資料から掘り起こし、検証し、収集して出来あがったのがこの本なのである。
 著者がこの本をしたためた理由は以下の如し。巣鴨精神病院のカルテから、ある患者が「横に読むと独語に読め、縦に読むと業書(日本語)に読める全く新しい言語」を発明した記録を観て、最も創造的な作業が精神の安定性を欠いた状況で初めてなされる事に心底感動したからだという。そしてここの病院長は(大正の時代と思われる)患者のカルテを几帳面に整理して後世の役に立てようとしたほんま立派なできたお方だったらしい。精神病院を監獄から解放したことでも有名だそうだ。古今から言われている狐憑きや発狂という異常な症状を医学的にきちんと検証し、肉体的欠陥(動脈血栓とか)に結びつけて治療しているのだから、迷信の渦巻く時代ではさぞかし大変なことであったろう。
 さて本書ではこうした病院長の例の他に、テスラーコイルで知られる「ニコラス・テスラ」も登場する。この人はあまりの天才の為エジソンの迫害に遭って埋もれてしまった事は余りにも有名である。しかるにエジソンの直流に対して彼の唱える交流のお蔭で現在の我々の生活があるのだから面白いものである。ただ彼も交流理論から、エネルギーの空間伝送にまで考えを広げた為に、大衆がついていけなくなってしまい、晩年はある意味で不幸な人生を送ったという。また彼はエジソンとの経験から論文発表を全くせず、大量のメモ書きが残っているだけらしいが、実のところこうしたメモは当局が彼の死後直ちに封印してしまった為、公にはなっていないのだ。かのフィラデルフィア・エクスペリメントに関係しているという噂なのだが。
 とまあこうして昔の奇人変人を集大成しているのである。時代もおもしろいし、人間もおもろい。これらのパラノイアの面々は社会のシステムがそれほど完備してないが為に全てを一人で切り盛りして、結果として社会とのバランスが一見とれていたが故にかろうじて存在が許されていたのである。現代ではとーてい無理な話である。
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テーマ : エッセイ/随筆
ジャンル : 本・雑誌

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Author:JASON
はじめまして。JASONと申します。ホラー映画が大好きで放映される作品は大概録画して観ています。時間が許せば劇場にも足を運びますが、ことホラー映画に関して言えば米国で公開された数の十分の一くらいしか我が国で公開されないのが残念です。因みにハンドルネームのJASONは御存じ13金のシリーズから取ったものです。さて小生の他の趣味ですが楽器では習い事レベルですが、クラシックのヴァイオリンとジャズピアノを奏します。またカクテルに興味があり、冬はマンハッタン、夏はマルガリータなどを作って楽しんでいます。更に ホームページギャラリー「チェリーとジャンヌ」を公開中です。黒猫チェリーと白猫ジャンヌが登場するイラストストーリーとギャラリーの二本立てになっています。見て頂いた方々のご感想や意見交換などをホームページつくりに反映していきたくよろしくお願いします。なお、URLはhttp://parnassum.web.fc2.com/です。

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