ゴヤ展(国立西洋美術館)
今年になってから気掛かりな事としてこのゴヤ展が一月一杯(29日まで)で終了することがあった。ようやく間に合ったのでここにレポートする。小生がゴヤの作品自体を個別で観た記憶はあるのだがゴヤ展として全体像を体験したのは今回が恐らく初めてであろう。
さて本展覧会のポイントは二つある。先ずは「着衣のマハ」である。これは超有名であるが実物を観るのは今回が初めてだ。そしてそれは想像を絶する作品であった。ゴヤの絵として人物画はかなりあるが、どれもが顔が明確でない。つまり人相がはっきりしないのだ。よって視線が定まらず、衣服や背景(例えば木々や建物)なども不明瞭に描かれているので構図の印象が薄くなってしまう。こうした他の作品と比較すると「着衣のマハ」はまるで別人が描いたと思わせるほど刺激的だ。先ずマハの人相は極めてはっきりしており、その視線は絵を見る人を鋭く貫くようだ。また着衣にしろベッドにしろかなり細かく描き込まれている。そして左右一杯に広がる迫力ある構図も素晴らしい。絵全体からオーラのようなものが立ち上っており思わず立ち止まって見入ってしまう。正に名作の名に相応しい逸品と言えよう。
しかしこれだけで終わらないのが本展覧会の凄いところだ。ゴヤは人物画などの絵の他に小型のイラストを描いている。技術的にはエッチングなどを駆使しており、様々なシリーズものとして出版されているのだ。そこに描かれているのは悪魔、魔女、といったファンタジーから戦争の凄惨な場面、闘牛で撒き散らされる血糊、妖怪めいた生き物などである。そのパーフォーマンスはカリカチュア、寓意、エルンストを思わせる筆致、など文字通りシュールレアリスムを先取りしたもので圧倒されてしまう。どれもが精密に書き込まれ戯画としての出来栄えも素晴らしいもの。元来印刷メディアを対象としたこうした作品群は同時にメディアの精度にも影響される宿命を持っている。事実売店には一つのシリーズを本にした商品があったが印刷(オフセット)の品質は最低であった。その点、出版物をオリジナル印刷技術(エッチングなど)で楽しめた当時の人たちが羨ましい。そして今回その出版物を原画として鑑賞できる喜びは何ものにも変えがたいものだ。
ゴヤは元々は職人画家であった。様々な肖像画にみられる先ほどの不明瞭な描き方の先にはどうも「不承不承描いた」印象を拭いきれない(「着衣のマハ」は別格)。本当は小型のカリカチュアの作品に彼の真骨頂があったのではないか、と邪推してしまうほど非常に興味深い展覧会であった。








